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2025年02月18日
繋がりの輪の中にある精神医療
こころと身体(からだ)の健康を大切にして生きて欲しい。これは、自分にとって大切な人に向けて抱く、ごく自然な感情かもしれません。
身体の健康というのは、ある意味、目にみえてわかりやすいという特徴があるでしょう。事故などで、手や足の骨を折ってしまうと、傷を手当てして、薬を飲んだり、ギブスをしたりすることで、骨が元の状態に戻るまで、治療を受けることになるでしょう。内臓に何か病気がみつかれば、レントゲンを撮ったり、血液検査の数値を確認することで、何の病気かを特定して、薬や手術による治療がスタートするかもしれません。

その一方で、こころの健康というものは、少しわかりにくい面があるといっていいかと考えています。
・眠りにくくなったから、考えごとのし過ぎかな?
・なんとなく、気分が沈んでる感じがあるけどなんで?
・怒りっぽくなってるけど、性格の問題かな?
・食欲へったな。沖縄、最近暑いから?
・趣味だったことが楽しめなくなったかも?
これらは、ひょっとすると、こころの健康が保てなくなっている❝精神症状❞の現れかもしれません。もちろんこころと身体は密接にかかわっているので、このような症状がすべてこころの不調からきていると、簡単に決めつけない方がいいですが、いつもの自分と違う感覚があれば、こころが反応していると考えてみると、何かのヒントになることもあります。
日常がいつもハッピーで、何の悩みも抱えていない方が、理想的な人生と呼べるかもしれません。ただ、多くの人は、願っていたことが叶わなかったり、自分の力だけではどうにもならないことに直面したりして、残念で心細く思うことも、時には経験することでしょう。生きることには、こころの波がつきまといます。
みなさんはそんな時に、どうしていますか?
近くにいて、信頼できる人に相談していることがあるのではないですか?そういう人がなかなかいない状況にあれば、遠く離れた知り合いか、オンラインでできた仲間に頼ることもあるでしょう。そうやって誰かと繋がることで、問題がすぐに解決しなくても、安心感を得て、なんとか日常のやりくりができることもあります。
これは、connection(コネクション)と呼ばれ、日本語では❝繋がり❞と訳されることが多いようです。また、この言葉と似たものに、attachment(アタッチメント)があり、これは❝愛着❞と訳されています。この2つの言葉は関連が強く、心理学や精神医療の中でも注目されている考え方になります。
人の人生における最初のコネクションは、養育者(親などの保護者)と子どもの間に作られるアタッチメントと言い換えることもできます。アタッチメントは、子どもが不安や恐怖を感じた時に特に発動されて、養育者にくっついて、安心感を得ることで、より強く働くようになります。赤ちゃんたちは、これを何度も何度も繰り返して、自分はひとりではないこと、困ったことがあれば、誰かが助けてくれることを体感していきます。赤ちゃん時代が過ぎれば、次は幼児となって、家の外に出て、保育士さんなどに出会う子もいるでしょう。そこれでも、何度も何度も保育士さんにアタッチして、泣いた顔が笑顔に変わる経験を積むことも考えられます。子どもは成長を重ねて、友だちと仲良くなってアタッチして、パートナーができてアタッチして、人々が繋がっていく基礎が作られていくわけです。
ここで疑問に思うことは、ではその基礎がなければ、人生ひとりぼっちでうまくいかないのか?ということにもなるでしょう。いいえ、そのようなことはありません。アタッチメントはいつでも誰でも、もう一度誰かと作り上げることができると考えられています。精神医療の中では、こころの不調がある人に、薬での治療を行うこともありますが、さまざまな精神症状がある人やその家族の集まりをもつこともあります。代表的なものに、発達症、依存症、認知症の当事者グループやその家族のグループなどがあげられます。これは近しい経験をした人たちが、アタッチメントの再形成を図る場所、新しいコネクションを作り上げる場所、と捉えることができます。
精神症状にひとりで立ち向かって、良くする人もいるでしょう。どうしても、人との繋がりの中で、回復を望まないのであれば、それも一つのやり方であると思われます。ただ、繋がりの輪の中に入ることで、こころの安定に近づくヒントが得やすくなることもある、と同時に考えます。プライベートなコネクション、あるいは医療スタッフとのコネクションも、力になることもあるのではないでしょうか?特定の精神症状の中で作るコネクションも素敵ですし、多種多様な経験や専門性があるスタッフと繋がることも、新たな一歩の原動力になると実感しております。
精神科に足を踏み入れることは、勇気がいることかもしれません。世の中には、まだまた精神科に対しての偏見があることも確かです。医療スタッフはさまざまな活動を通して、その偏見を少なくしていく努力も重ねております。精神科にかかわることに抵抗がない人は、もちろん歓迎ですし、もしもう一歩がなかなか踏み出せないようであれば、大切な誰か、あるいはご自身のことを理解してくれる人と共に、精神医療の世界に飛び込んでみて欲しいです。南山病院スタッフはいつでもあなたの連絡をお待ちしております。
南山病院 心理科
認定専門公認心理師・臨床心理士 名城卓哉