ピックアップ

- ピックアップ
- 新たに始まる就労選択支援事業について
2025年02月18日
新たに始まる就労選択支援事業について
令和7年10月より新しい就労系障害福祉サービス、就労選択支援が施行されます。就労選択支援を知る上でのポイントとして、本制度ができた背景を知ることが重要です。背景として大きく分けると、以下の3点があげられます。
【就労選択支援の背景】
1. 適切な評価手法の不足
障害者の就労能力や適性を客観的に評価する仕組みがなく、本人が適切な選択を行うための情報が本人・支援者ともに不十分であるため、適切なサービス等に繋げられていないこと
2. サービス利用の固定化
就労継続支援A型・B型を利用すると、そのまま継続され、本人のニーズに合った柔軟な支援が提供されにくい状況が続いている
3. 支援者の役割不足
本人の立場に立ち、次のステップを促す支援者がいるかどうかで、職業生活や人生が大きく左右されること
これらを背景に就労選択支援の目的は『働く力と希望のある障害者に対して、障害者本人が自分の働き方について考えることをサポート(考える機会の提供含む)するとともに、就労継続支援を利用しながら就労に関する知識や能力が向上した障害者には、本人の希望も重視しながら、就労移行支援の利用や一般就労等への選択の機会を適切に提供する』となりました。
【具体的な内容】
就労選択支援では、障害のある方が自分に合った仕事や就労支援サービスを選べるよう、以下のようなサポートを行います。
●作業場面等を活用し、本人の強みや特性、本人が望む方向に進む上で課題となること等について、本人と協同して整理し、利用者本人の自己理解を促すことを支援する
●自分に合った働き方を実現したり、働く上での課題改善等に向けて、どんな方法で、何に取り組むのか、どこで取り組むかについて本人と協同して考える
●本人の選択肢を広げ、本人の的確な選択につながるよう、支援の実施前後において、本人に対して、地域における雇用事例や就労支援に係る社会資源等に関する情報提供、助言・指導等を行う
●アセスメント結果は、本人や家族、関係者等と共有し、その後の就労支援に活用できるようにする
●就労選択支援利用後の就労支援等において、アセスメント結果が効果的に活用されるよう、就労選択支援事業所は計画相談支援事業所や市町村、ハローワーク等の就労支援機関との連携、連絡調整を行う
【期待される効果】
●アセスメントに関する専門的な研修を修了した人材を配置することにより、質の高いアセスメントに基づいた就労支援を受けることが可能となる
●本人の就労能力や適性、ニーズ、強み、職業上の課題、本人が力を発揮しやすい環境要因、就労に当たっての支援や配慮事項等を本人と協同して整理することで、本人の自己理解を促進することが可能となる
●本人と協同して整理した内容や地域の企業等の情報を基に、関係機関と連携することにより、本人にとって、より適切な進路を選択することが可能となる。また、就労継続支援A型・B型利用中も、本人の希望に応じて就労選択支援を受けることができ、就労ニーズや能力等の変化に応じた選択が可能となる
【アセスメントの定義】
本人の就労能力や適性の客観的な評価を行うとともに、本人と協同して就労に関するニーズ、強みや職業上の課題を明らかにし、ニーズを実現するために必要な支援や配慮を整理すること
上記は、厚生労働省の公表している文言ですが、特徴として課題思考型のアプローチではなく、『本人の希望』『本人の強み』『本人と協同』『適切な情報提供』というところにあります。
私達は本人のためを思いながら、父権主義的に関わってしまう場合があります。そのような場合では情報の提供が偏っていたり、権威を持って情報提供がなされた場合、本人の意思決定が制限されることもあり得ます。
また、就労支援において「個人と環境の相互作用」の視点はとても大切です。職業生活を構成するさまざまな活動において、対象者がどの程度の能力を発揮できるかは身体・認知機能の状態や健康状態といった個人の要因だけで決まるわけではありません。職場においてどのような支援や配慮を受けることができるかといった環境からの影響を受けます。 また、職場で障害を開示するかどうかといった個人の要因は、職場において受けることのできる支援や配慮の範囲、つまり環境に影響を与えます。
個人と環境はお互いに影響を与え、「相互作用」の関係にあり、相互作用の結果が職業生活を構成する諸活動における能力の発揮状況に現れることになります。対象者に必要な支援・配慮を検討する際は「対象者のストレングスを引き出す環境はどのような環境なのか」「苦手なことなどが現れにくい環境にするにはどのような支援や配慮が必要なのか」「対象者が希望する環境で働くにはどのような学びや体験が必要になるか」といった個人と環境の相互作用の視点でアセスメントすることが重要になります。
就労選択支援員養成者研修のモデル事業においても、支援員の質には自身を俯瞰して見る力も必要であり支援者が阻害要因となり得ることについて議論されていました。私達、対人援助職を担う者は自身が『阻害要因』となり得ることを踏まえて、それぞれの立場で対象者と向き合うことが大切だと感じております。
引用文献
・厚生労働省 社会保障審議会障害者部会(第145回)
・高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 就労支援のためのアセスメントシート
沖縄県 南部地区障がい者就業・生活支援センター ブリッジ
センター長 國吉 利生